脱サラしてカフェといえば、一昔前のあこがれにも似た夢があります。
ですが、その現実はやはり厳しいものです。元サラリーマンオーナーの多くの方が、カフェ開業に夢を見て敗れていきます。
では、そういった元サラリーマンオーナーが失敗するのはなぜでしょうか?
100店舗以上のカフェ開業をサポートしてきた経験から、飲食出身者に比べて、飲食未経験オーナーが失敗しやすい理由をご紹介していきたいと思います。
「技術力不足」要因でのカフェ開業失敗は少ない
このコラムを読む前に、ぜひ下の質問について頭のなかで考えてみてください。
「脱サラしてカフェ・喫茶店を開業するサラリーマンに失敗が多いのはなぜでしょうか?」
もしくは「脱サラしてカフェ・喫茶店を開業するのに一番重要なことはなんでしょうか?」
同じ質問を、カフェ開業予定の方に聞くと、“技術力不足”や”経験不足”を挙げる方が多いです。
実際、今まで飲食店を経験したことがないサラリーマンの方で、最も多かった質問が「あなた方のサポートを受けても、どこかの飲食店で実務経験を積んだり、もっと勉強したほうがいいのでは…?」でした。
多くの人が
「カフェ・喫茶店経営には専門的な技術が必要で、それがなければ経営は失敗する」
と考えていることが分かります。
もちろん、技術や品質は間違いなくカフェのウリにつながる成功要因のひとつです。
ですが、「技術・品質がありさえすればカフェが上手くいく」という考え方は本質的には間違いです。
技術がなくても繁盛店のカフェは作れる
たとえば、自宅でそこそこ料理をする方にレシピと一緒に食材を渡すとします。
すると、町の定食屋さんやカフェにあるフードメニューくらいなら、きっと同じクオリティぐらいには仕上げてくるでしょう。
サンドウィッチやコーヒーの淹れ方など、もちろん専門的な技術もあります。ただ、それこそある程度の回数セミナーに通っていただければ、町場の人気店ぐらいの技術は習得できます。
カフェにそれほど専門的な技術というのはないのです。
少しぼかしますが、脱サラ後にカフェ開業セミナーを受講された方のサポート事例があります。
わたしたちとスイーツのレシピを一緒に考えたスイーツ専門カフェは、オープンから毎日スイーツが売り切れる人気店になりました。
コーヒーは全自動マシンで提供しています。
カフェを経営するのに必要なのは、「お客様に求められるお店を作れるか」。”高度な技術を持つシェフやバリスタ”になることではありません。
技術・品質はお客様に求められるお店になるために大切なものです。でも、本当に大事なものはその先にあります。
とはいえ、お客様に求められるお店を作るのは至難の業です。それが分かっていれば、私たちでも100発100中でカフェを当てています。
ただ、「お客様に求められないカフェ」なら分かります。
何軒も開業に関わってきた経験から、特に元サラリーマンの方が作ってしまいがちな「お客様に求められないカフェ」のケースをご紹介します。
カフェ開業の失敗例 同業者のリサーチ不足
飲食店に勤めていると、同業者の情報や「どのお店でどんなメニューを展開している」といった情報が自然と入ってきます。
お客さんから教えてもらえるからです。
そういった情報に関しては、サラリーマンの方だと圧倒的に不利。
今どんなカフェが流行っているか?
どんな提供スタイルやオペレーションをしているか?
どんなメニュー構成だったか?
これらをサッとこたえられる脱サラ開業志望者はまずいません。
きちんとリサーチをして価格設定やメニュー構成、オペレーションを考えられればいいのですが
「フルサービスのほうが”サービスしている感”があっていい」
「1杯500円のコーヒーじゃ高くて飲んでもらえないんじゃないか」
と感覚で決めてしまうと痛い目を見ます。コーヒーの売値を350円にしてしまったために、人気店なのに火の車になったカフェも何店舗も見てきました。
特に、最近は人件費や材料費の高騰で、値付けと粗利の関係はシビアになってきています。
オペレーションや価格設定は、オープンした後ではなかなか変えづらいポイント。きちんと他店をリサーチして参考にしましょう。
カフェ開業の失敗例 融資を頭から考えない資金計画
飲食店アルバイトから起業したオーナーは、お金がないので融資ありきでお店を作ります。
もちろん、それはそれで失敗した時のリスクもあります。ですが、逆に、サラリーマンオーナーにありがちなのが手元のお金だけでなんとかしようとすること。
普通のサラリーマンがだいたい30代で持っている貯金は300万円ほど。でも、300万円では”普通に”まともな店を作るのはかなり大変です。
物件がものすごく狭い
最初から備品がすべてそろっている
などなど、かなり有利な条件がないと、いろいろな部分で妥協したお店になってしまいます。当然、それはお客様から求められないカフェになりがちです。
もちろん無限にお金があるわけではないので、”妥協”はどこかでしないといけません。
ですが、「絶対にここに投資しないといけない」部分がもしあるのなら、融資を視野に入れて検討したほうがいいでしょう。
間違っても、コーヒー専門店なのに、予算が足りなくてコーヒー器具のランクを落とすなんてことにならないよう。
無理に家族・友人をやとわない
家族をスタッフにすれば、人件費も抑えられるし、お互いのこともわかっているから楽だろう
…と考えて、親、子ども、パートナー、友人をスタッフにする人は後を絶ちません。
これは、脱サラしてカフェ…というか起業全体において、かなり多い失敗パターンです。
仲のいい友人・家族でもお互い同じ職場にいれば絶対にどこかで揉めます。これは絶対です。
「接客の態度が悪いのになかなか注意できない」
「お店のことを一緒に考えて欲しいのに、考えてくれない」
普通のスタッフなら求めないことも家族には甘えてしまいます。また、家族やパートナーだからこそ言い出せないことも出てきます。
自分側だけではなく、スタッフ側から求めてくることだってあるでしょう。
「友人同士で起業したのに、社長のお前だけ多くお金をもらっているのはずるい」
などは代表例のひとつ。
家族・友人同士のカフェ開業は普通のカフェ開業以上に失敗しやすいので注意してください。
パートナーとのカフェ開業をうまくいかせるためには?
ただ、もし家族・友人同士でカフェをやることが目標にあるのであれば、絶対に大事なことがあります。
それは、他人をスタッフにして人件費を払ったとしても、やっていける売上を上げることです。つまり、パートナーが最悪いなくなっても、運営できる体制が必要になります。
友人でも家族でも、オーナーとスタッフの関係になったなら、そこはハッキリ切り分けて考えるべきです。
仕事時間の拘束も、それに伴う賃金の支払いも普通のアルバイトにやるようにするのが一番。
むしろ、それができないモデルでカフェ開業するのは危険なのでやめたほうがいいでしょう。
カフェのコンセプトが生存バイアス左右されている
店の経営を考えるとき、周辺のリサーチを怠らないようにと言いましたが、周囲の店を見るときに気を付けることがあります。
それは「生存バイアスに左右されない」ことです。
実際に相談を受けた例をあげてみましょう。
「近所に夫婦でやっている自家焙煎店の小さなコーヒー専門店がある。フードもサンドウィッチすら出していなくて、モーニングのトーストぐらい。コーヒーもエスプレッソマシンなんて入れていないし、それでも毎日にぎわっている。あれぐらいなら初期投資も安く済むし、あんなお店がやりたい」
これを聞いて、あなたは「そんなバカな」と思いましたか?
実は、こういった相談ってかなり多いんです。
もし、同じようなプランを考えていた人にはぜひ意識して欲しいことがあります。
それは以下の2点。
・いま生き残っているお店は、創業当時は最新のスタイルで開業していた
・同じようなスタイルのカフェも何軒もつぶれてきたなかで生き残った猛者である
参考にすべきは地域の老舗ではなく、流行りのカフェ
たとえば、少なくとも、エスプレッソマシン不毛の土地である名古屋だけを見ても、ここ数年のコーヒー専門店をうたうお店で、エスプレッソマシンがないお店はほぼありません。
昔の喫茶店ならいざ知らず、スターバックスが台頭して以来、カフェラテをコーヒー専門店で出すのは当たり前になってきました。
昔は、上質なコーヒーを出すコーヒー専門店というだけでも、喫茶店のなかでは”新しい”存在だったかもしれません。
でも、今の時代ではよほど他のウリがないと、そもそも同じことをやって店は続きません。
これからカフェ開業するあなたがリサーチすべきは、「今も生き残っている老舗」ではなく、「ここ数年で勢いのあると感じているお店」です。
飲食店で勤めていた人ならともかく、脱サラしてカフェ開業する方は、こういった最新のお店の情報をなかなか知らないので、知り合いのカフェオーナーに確認しておいたほうが無難でしょう。
よかったら、名古屋の方は、先ほどご紹介した記事を参考にしてみてくださいね。
カフェでいくら稼ぎたいのかが明確でない
脱サラしてカフェ開業を夢見る人に訪ねる質問がもう1つあります。
それは「毎月いくらの収入が欲しいですか?」です。
ただ、一番多い回答は「細々と暮らしていけるだけの収入があれば…」です。
こういう方はほぼ間違いなく失敗します。
税理士や商工会議所に相談に行ってみてください。「わかりました。まずは事業計画書を作って、いくらの利益が出るか計算してみてください」とばっさり切られるはずです。
「脱サラしてカフェ開業」を目指す人はに共通する要素として、社会での生活に疲れたのか、どこかスローライフというか、他人に指示されずお金が稼げるならいいやという気持ちが見え隠れします
一方、飲食経験者が起業するときは、めちゃくちゃハングリーです。「雇われスタッフだと稼げなかったけど、起業して稼ぐ」という夢を見て起業するからでしょう。
「脱サラしてカフェ」はスローライフのはじまりではない
当然ですが、カフェ開業はどれだけ緩く見えても”事業”です。稼ごうと思って入念な計画を立てて、初めて目標とした売上を達成できます。
カフェに来るお客様だって、やる気のないお店には立ち寄りません。
いくらの経費をかけて、それを何年で回収して、最終的にいくらの利益が欲しいのか。
この計画をきちっと出せる人は、異業種のサラリーマンからの開業でも成功することが多いです。
このあたりの話は、他の記事でもう少し詳しく触れています。ご興味があればそちらをご覧ください。
よくある失敗例 原価率だけ計算して原材料をケチる
これは男性サラリーマンだった方に多い事例。よくあるのが、原価率だけ計算して原材料をケチる人が後を絶ちません。
たとえば、ランチに無料でコーヒーを付ける際、「普通の1杯500円で提供しているコーヒーと同じ豆なんて使っていられない。質が落ちても原価も落としたコーヒー豆を使おう」といったように。
ですが、この作戦はうまくいくことより失敗することのほうが多いです。
せっかく高品質なコーヒーを求めてそのお店を訪ねているのに、ランチタイムだけはコーヒーが美味しくないなんてことになったら、二度とお客さんはそのお店を訪ねてはくれないでしょう。
これは決して、いつなんどきも材料の質を落とさず、良いものを使えというわけではありません。
切り詰めないといけないものと、そうでないものをバランスよく判断しましょうということです。
飲食店経験者なら、この辺のバランス感覚を感覚的に知っています。
飲食店経営者の原価率の抑え方とは?
たとえば、居酒屋やバルの飲み放題プランに使われているお酒やジュース。これは、カクテルを1杯だけ頼んだときよりも質の低いものが使われることが多いです。
なぜなら、飲み放題に来るお客様は、飲み放題でしか利用しないとわかっているからです。
逆に、お酒やジュースの質を落とさない場合は、そもそも20名以上の貸し切りでしか飲み放題プランを承らないとか、他店の飲み放題プランよりも1,000円ほど値段を上げるなどして対処しています。
先ほどのランチのコーヒーの例だってそう。
たとえば、豆の質は落とさずに「本日のコーヒー」と言って在庫が残り気味のコーヒー豆を回せばどうでしょうか?在庫ロスを防ぎ、結果的に原価率を下げることに繋がります。
脱サラしてカフェ開業するオーナーさんは、このあたりのバランス感覚が絶対的に欠けていることが多いです。このあたりは現役オーナーに相談してみましょう。
カフェ開業の失敗例 資金計画に余裕を持った開業ができていない
脱サラしてカフェ開業を考えている方は、たいていサラリーマンを辞めたあとに動き出します。
そうなると、どうなるか。
手持ちのお金は少しずつ減っていき、〇月までに開業しないといけない焦りが見え始めます。物件もあかないので、第一希望ではないそこそこの物件を借りて起業準備をすすめてしまうのです。
一番危険な開業パターンです。
それでは運任せと何も変わりません。
起業はあくまで手段です。起業することがゴール(目標)になってしまい、いざお店を開業したときには燃え尽きていたなんてことがないよう。
先ほど触れましたが、脱サラしてカフェ開業に向かう方は、とかく融資、借金を嫌います。
ですが、融資を受けたからと言って、それを全部使いきる必要はありませんし、なんならプール金に回したっていいわけです。
お金の余裕は心の余裕に繋がり、集客やメニュー開発に時間をかけることもできるようになります。つまり、安定した経営に繋がります。
すると、不思議なことに余裕のあるオーナーのところに、お客様も集まってきます。同じメニューを出していても、余裕のなさそうなオーナーには人は集まってきません。
手持ちの資金だけでなく、融資なども検討に入れたうえで、資金計画には余裕を持った開業を心がけてください。
経験を積むならマルシェや間借り出店もアリ
ただ、脱サラしてカフェ開業を考えている方のなかには、「専門の業者に相談するのもハードルが高いし、知人で頼れそうなカフェ経営者もいない」なんて方もいらっしゃるでしょう。
そういった方におすすめしたいのが、マルシェ出店や間借りカフェです。
イベントやマルシェでコーヒーやスイーツを販売する経験は間違いなく自信につながります。なによりオペレーションを考えるきっかけになります。
また、間借りカフェもコロナ以前はあまりおすすめできませんでした。でも、最近は利用客側も間借りに抵抗がなくなってきた方が増えてきました。
いずれも10万円前後で開業できるうえ、都合のいいときだけ週末起業というやり方もできます。サラリーマンをしながらでも取りやすい方法です。
まずマルシェ出店、間借り開業から始めてみるのもよいでしょう。
コーヒー屋・カフェ志望者のマルシェ出店に関しては、拙著ではございますが、わたしが執筆した本があります。よかったらそちらをご覧ください。
イベント運営をやられている方にも「参考になる」とご評価いただけた本。マルシェ出店をお考えの方には間違いなく参考になると思います。
Kindle Unlimitedに加入している方なら無料でご覧いただけます。
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